広島高等裁判所松江支部 昭和26年(ネ)2号 判決 1952年7月25日
控訴人 原告 小木岩次郎
訴訟代理人 草光義質
被控訴人 被告 赤碕町農業委員会
訴訟代理人 大田雄造
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は控訴の趣旨として原判決を取消す。被控訴人が昭和二十四年四月二十七日別紙第一目録記載の不動産について為した買収申請却下処分のうち別紙第二目録記載の部分についてはこれを取消す。訴訟費用は被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は当審で控訴代理人において原判決書二枚目表十一行目中「又本件宅地は原告の」とあるを「又本件宅地は被告の」と訂正した外原判決摘示の通りであるからここにこれを引用する。
証拠関係は当審で控訴代理人において甲第十三乃至十七号証、甲第十八号証の一乃至三、甲第十九号乃至三十号証、甲第三十一号証の一、二を提出し、証人吉田棟蔵、友定きみ、井上国司、羽戸文吉、控訴人小木岩次郎本人の各尋問を求め、当審検証の結果を援用し被控訴代理人において証人三好久義の尋問を求め、甲第十三、十五、二十号証を不知と答えその余の右甲号各証の成立を認めた外原判決摘示の通りであるからここにこれを引用する。
理由
先づ被控訴人の本案前の抗弁について判断する。
本件買収申請却下行為は行政庁である被控訴人が控訴人の有する公法上の権利義務について国家の意思を表示しその結果控訴人に対し法律上の効果を及ぼすことを目的とする行為であるから所謂抗告訴訟の対象たる行政処分であると言わねばならぬ。従つて被控訴人に対しこれが取消を求める控訴人の本訴請求は適法であり被控訴人の抗弁は理由がない。
次に控訴人が自作農創設特別措置法の規定によつて買収された農地の売渡を受けて自作農となつたこと、控訴人が訴外宇田川百蔵から別紙第一目録記載の宅地建物を賃借しそこで農業を営んでいること控訴人が右措置法第十五条第一項同法施行規則第七条の規定により昭和二十四年一月三十日被控訴人に対し右宅地建物の買収申請をしたところ同年四月二十七日被控訴人が該申請を不相当として却下したことは当事者間争のないところである。
そこで被控訴人の為した右却下処分の当否について判断する。
成立に争のない甲第三号証、原審証人小木いわ、小木重則の各供述によれば控訴人は元逓信省に勤務していたが公傷によつて退職したので昭和十五年頃畑約三畝歩を借受け農業を始め右却下処分のあつた当時たる昭和二十四年四月頃においては三反余の畑地を耕作していたこと、控訴人の妻小木いわは本件建物において表具商を営み、控訴人の長男小木重則は新制中学校の教官をしていたこと、右三者の収入によつて控訴人一家の生計が樹てられていたことを認めることができ更に成立に争のない甲第一号証、甲第三号証、甲第四号証の一乃至三、甲第九号証、甲第十号証、甲第二十二号証、乙第二号証、原審における証人小木重則(一部)、佐伯節蔵、三好久義の各供述、当審における証人三好久義の供述、原審及び当審における各検証の結果を綜合すれば本件買収申請却下処分当時控訴人の営む農業はその所得の面より見れば妻小木いわの表具商所得、長男小木重則の給与所得の合計よりも遥に少く従つてその生計の支柱を為すものとは言い難く従つて副業的なものとして営まれていたこと、本件宅地建物の位置構造等よりみて商業用店舗として利用される場合の価値は大であるけれども農業用としてはそれに比して価値が僅少であること、本件建物は床板の下に甘藷を貯蔵する設備をしてある外取り立てて言う程の農業用の施設はしてないけれども表道路に面した一室は完全に妻いわの表具商の店舗として設備しこれに使用されていること本件建物を全般的にみれば商業用店舗又は単なる住宅とは言い得ても農業用施設とは言い得ないこと、本件地上には住宅倉庫等建込み買収申請の対象たる土地及び家屋はその一部であつてこの家屋と他の倉庫等及び各その敷地が所有者又は使用者を異にするときは通路等の関係上その利用につき多大の不便を来す状態にあるのみならず本件宅地並に建物の価値が全体として半減することを認定するに充分であつてこの認定に反する原審における証人小木いわ、小木重則(一部)佐伯房松、控訴人小木岩次郎の各供述、当審における控訴人小木岩次郎の供述、当事者間その成立に争のない甲第七号証の記載内容は前記の証拠に照し採用することができない。果してそうだとすればこのような事情においてはたとえ控訴人が自作農創設特別措置法第三条第十六条により自作農となつた者であり又本件宅地建物について控訴人が賃借権を有するとしても買収農地に附帯しこれを買収する相当の理由があるものとは認められない。よつて別紙第一目録記載の物件について控訴人の買収申請を却下した被控訴人の処分は正当であり従つてその一部につき取消を求める控訴人の本件請求は理由のないものとして棄却すべく、これと同旨に出た原判決は相当であるから民事訴訟法第三百八十四条第一項を適用して本件控訴を棄却することとし控訴費用の負担について同法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 組原政男)
別紙目録第一、第二<省略>